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子どもが欲しいのに、不妊治療を続けられないのはなぜか――費用・仕事・心身の負担を整理する

「不妊治療を続けられないときに」「費用・仕事・心身の負担を整理する」の文字と、青い椅子のある静かな待合スペースを配したアイキャッチ。

「子どもは欲しい。

でも、このまま治療を続けられるかわからない」。

そんな気持ちになったとき、望みの強さと治療を続ける力を同じものとして考えていないでしょうか。

子どもを望む気持ちがあっても、費用、仕事、通院、身体への負担、結果を待つ時間が重なれば、今の生活では続けにくくなることがあります。

続けられない理由を一つに決めたり、自分や相手の気持ちの弱さに置き換えたりする前に、何が負担になっているかを分けて見てみましょう。

この記事は、治療を続けること、休むこと、終えることのどれかを勧めるためのものではありません。

医療上の見通しは診療先で確かめながら、家計、働き方、毎日の暮らし、二人の考えを整理するための読みものです。

今すぐ結論を出す必要はありません。

読み終えたときに、「次の診察で一つ聞く」「会社の制度を一つ調べる」「今日は話を聞いてほしいと伝える」など、今の自分にできる確認が見つかれば十分です。

まず分けたい3つの問い

① 子どもと暮らしたいという希望は、今どのようなものか。

② 現在の治療を、この条件で続けられるか。

③ 負担を減らすために、誰に何を確認できるか。

目次

費用だけでは説明できない、不妊治療の負担

不妊治療の負担を、お金(診療費・交通費・収入減)、時間(通院・待ち時間・直前の調整)、身体(処置・服薬・疲れ)、心理(結果待ち・周囲への説明)の4つに分けた図。

図1|筆者による整理。

負担は重なることがあり、感じ方には個人差があります。

いま困っていることを「お金・時間・身体・心理」に分け、相談したいことを一つ選ぶための図です。

治療費と、生活の中で増える支出を分ける

負担というと、診察や処置の支払いがまず思い浮かぶかもしれません。

しかし、通院の交通費、仕事を休んだ分の収入の変化、付き添いに必要な移動、遠方の医療機関に通う場合の宿泊など、生活の中で生じる費用もあります。

治療そのものの金額だけを見て「払えるはず」と考えると、実際の家計とのずれが残ります。

医療機関で払うお金と、通うために使うお金、働き方が変わることで減るお金を別々に書くと、負担の場所が見えてきます。

同じ金額でも、家賃や住宅ローン、家族の介護、収入の安定性によって受け止め方は違います。

ほかの人が支払えた額を、自分たちが使うべき額にしなくて構いません。

貯蓄を使うことに納得できる人も、急な病気や失業に備えるお金を残したい人もいます。

話し合う際には、治療への熱意を比べるより、「生活費として守りたいもの」「治療に使える範囲」「今はまだ見積もれない支出」を区別して伝えるほうが、具体的な相談につながります。

通院の時間だけでなく、予定を決められない時間がある

通院の負担は、診療にかかる時間だけではありません。

予約の調整、職場への連絡、検査結果の確認、次の受診日が決まるまで予定を空けておくことにも時間を使います。

治療内容によっては、身体の状態を見ながら受診や処置の日程が決まるため、先に仕事の予定を固定しにくい場合があります。

毎回同じ曜日に休めるとは限らず、勤務時間が短くなっただけでは解消しない難しさもあります。

この負担を周囲に説明するなら、「月に何回休むか」だけでなく、「いつ決まる予定なのか」「直前の変更があり得るか」「一日のどこに空きが必要か」を分けてみましょう。

たとえば、受診回数が少なくても、翌日の予定が当日にならないとわからない仕事では調整が難しくなります。

自分が段取り下手だからだと考える前に、治療の予定の決まり方と、仕事が求める予定の立て方が合っているかを見る必要があります。

身体の負担と気持ちの負担は、別々に確かめる

身体の負担は、処置の痛みの有無だけでは決まりません。

服薬や注射、検査、処置の前後の過ごし方、通院による疲れなど、診療の内容やその時の状態によって違います。

仕事ができているから負担が少ないとも、横になりたいから治療に向いていないとも言えません。

いつ、何をした後に、日常生活のどの部分が難しかったかを記録すると、診療先で相談しやすくなります。

症状の判断や薬の変更は、自己判断で進めず医療者に確認してください。

一方、身体が落ち着いていても、結果を待つことや次の治療を考えることがつらい場合があります。

反対に、治療中も大きな不安を感じない人もいます。

誰もが同じ気持ちになると決めつけず、「眠り」「食事」「仕事への集中」「人と会うこと」など、暮らしに起きている変化を言葉にしてみましょう。

気持ちの相談は、治療をやめるためだけのものではありません。

続け方を考えるときにも、結論が出ていないときにも利用を検討できます。

お金の見通しは、保険・自費・暮らしの費用を分けてつくる

「保険適用になった」と「すべてが同じ条件で使える」は違う

2022年4月から、不妊治療のうち有効性・安全性が確認された一般不妊治療や生殖補助医療の基本的な治療が保険の対象となり、自己負担は基本的に3割とされています。

ただし、希望する治療のすべてが一律に対象になるわけではありません。

まず診療先で、自分たちが予定している検査、薬、処置のうち、何が保険診療で何が自費になるのかを確認しましょう。

治療法の名前だけで支払額を判断せず、今回の計画の内訳を聞くことが大切です。

体外受精・顕微授精などの生殖補助医療には、治療開始時の女性の年齢や胚移植の回数に関する保険上の条件があります。

この「回数」は、通院や採卵をすべて数えた回数と同じではありません。

また、一般不妊治療に、生殖補助医療と同じ年齢・回数の条件をそのまま当てはめることもできません。

過去の治療歴や今後の計画を含め、自分がどの条件で受けることになるかを診療先に確認してください。

事実婚でも確認条件を満たせば保険の対象になります。

一方、第三者の提供精子を使う人工授精などは保険診療の対象外であり、一般の人工授精と同じ扱いではありません。

出典:保険適用の確認事項(問12・13・22/PDF)

公式案内|保険の対象・条件を確認

提供:こども家庭庁。

対象となる治療、年齢・回数の条件、先進医療との関係を確認できます。

ご自身の治療計画への適用は診療先で確かめてください。

高額療養費は、受診する月と加入保険を確かめる

保険診療の自己負担については、高額療養費制度を確認できます。

限度額は年齢や所得などによって異なり、制度の内容にも更新があります。

以前の体験談や古い早見表の金額を、自分の支払い上限として使わないようにしましょう。

加入している健康保険の窓口に、「どの月の診療か」「自分の区分は何か」「窓口で必要な手続きはあるか」「後から申請するものはあるか」を聞くと、今回の支払いに結びつけやすくなります。

確認するときは、病院で払うものをすべて一緒にせず、保険診療の自己負担、自費の検査や治療、文書料などを分けてください。

先進医療についても、その技術の費用は自己負担となり、保険診療と併用できる範囲には条件があります。

自治体の助成は地域や対象となる治療、申請時期などによって異なります。

制度の名称を見つけたら、対象になるか、いつまでに何を出すか、実際に支援を受けるまで立て替えが必要かまで確認しておくと、家計の見通しを立てやすくなります。

出典:厚生労働省「高額療養費制度」の最新案内

予算は、治療の総額だけでなく一か月の暮らしで考える

区分確認すること・相談先
保険診療治療の内訳・支払う月・適用条件を確認。

相談先:診療先の会計・相談窓口、加入保険者。
自費検査・先進医療・保管などの費用と必要性を確認。

相談先:診療先。
通院・生活交通・宿泊・付き添い・家事の外注費を記録。

確認先:利用先、自分たちの記録。
収入の変化欠勤・休職・勤務時間の変更による手取りへの影響を確認。

相談先:人事・労務担当。
生活費住居・食費・返済・急な支出への備えを確認。

確認先:家計の記録、必要に応じて相談窓口。

表を埋めるとき、まだ金額がわからない欄を無理にゼロにしなくて構いません。

「未確認」として残し、次に聞く相手を書いておきます。

毎月の固定費、治療のある月だけ増える支出、後から戻る可能性があるお金を分けると、手元に必要な資金が見えてきます。

治療費のために何を削れるかだけでなく、食事、住まい、休息など生活を支える支出をどこまで守りたいかも話してください。

生活を壊さず続けられる条件を探すことも、治療について考える一部です。

家族を持つためのお金は、妊娠までの費用だけではありません。

将来の生活費や育児中の働き方まで考え始めると、今の治療費への不安が大きくなる場合もあります。

すべてを一度に計算しきろうとせず、まずは次の治療と当面の暮らしを確認し、その後に出産・子育ての見通しを広げる順番でも構いません。

妊娠・出産から教育費まで、支払いが重なる時期と使える支援を知りたい方はこちら。

仕事と通院は、「休めるか」だけでなく調整の仕組みから考える

2023年の厚労省調査。仕事と治療を両立できず退職・治療中止・雇用形態変更をした67人の複数回答。日程調整49.3%、精神面44.8%、体調・体力40.3%、通院回数32.8%、移動・職場支援不足・仕事のストレス各20.9%、長時間労働14.9%、その他1.5%。

図2|2023年8月調査。

不妊治療と仕事を両立できず、退職・治療中止・雇用形態変更をした回答者67人の複数回答です。

全国の不妊治療者全体の割合ではありません。

項目名は短縮しています。

日程調整には、待ち時間が読めないことや、医師から告げられた通院日に外せない仕事が入ることなどを含みます。

両立できなかった回答者の理由には、日程調整や精神面、体調・体力面の負担が並びます。

一人に複数の負担が重なる場合もあるため、続けにくさを一つの理由だけで説明することはできません。

出典:厚生労働省「令和5年度 不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査」本文43頁・図34(PDF)

勤務先の制度と、実際の使い方を分けて確かめる

治療と仕事の両立を考える際は、有給休暇の残日数だけでなく、時間単位で使える休暇、時差出勤、フレックスタイム、在宅勤務、勤務先独自の不妊治療休暇・休職制度など、利用できるものを確認します。

ただし、これらがどの職場にも同じように用意されているわけではありません。

就業規則や人事の案内で、対象者、申請方法、必要な書類、取得単位、給与の扱いを確かめましょう。

名前が似た制度でも、使える条件は異なります。

2026年4月からは、治療と就業の両立を支える取組が事業主の努力義務となっています。

同指針では、反復・継続する治療と、就業継続への配慮が必要と医師が判断する疾病等が対象です。

一方で、全国の勤務先に同じ有給の不妊治療休暇が設けられた、という意味ではありません。

公的な指針、勤務先の就業規則、自分が申請する制度を分けて確かめる必要があります。

「制度がないと言われたから何も相談できない」と決めつけず、働き方や通院時の配慮について相談する窓口と手順を確認しましょう。

出典:厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」

制度があっても、直前の申請を誰が受けるのか、連絡先が一人に集中していないか、引き継ぐ仕事が毎回決まっているかによって、使いやすさは変わります。

「休みをください」だけで話が止まるなら、「予定が変わったときはこの窓口へ連絡する」「対応を引き継ぐ業務を先に一覧にする」など、運用の相談を分けてみましょう。

本人の努力で解消できる範囲を超える場合は、上司だけで抱えず人事・労務担当などにも相談する方法があります。

職場には、調整に必要な情報から伝える

治療を職場にどこまで伝えるかは、信頼できる相手、制度の申請に必要な情報、自分が話したい範囲を分けて考えられます。

診療の詳細を誰にでも説明することと、仕事の調整に必要な事情を伝えることは同じではありません。

まず「通院が必要」「受診日が直前に決まる場合がある」「一定期間、勤務の調整を相談したい」など、働き方に関係する内容から準備してみましょう。

書類が必要な場合は、その提出先や情報の共有範囲も確認できます。

職場への相談文の例

① 継続して通院する必要があり、受診日が直前に決まることがあります。

利用できる休暇や勤務時間の調整方法を相談したいです。

② 詳しい診療内容は限られた担当者に共有したいと考えています。

申請に必要な情報と、社内で共有される範囲を教えてください。

③ 担当業務の引き継ぎと、急な予定変更がある場合の連絡方法を、先に決めておきたいです。

厚生労働省は、主治医から勤務先へ治療への配慮を伝えるための「不妊治療連絡カード」を用意しています。

医療機関と相談し、治療と仕事の調整を説明する資料として利用を検討できます。

ただし、カードを出せば希望する休暇や勤務方法が自動的に使えるというものではありません。

勤務先の制度と照らし合わせ、どの配慮をどう申請するかを確認してください。

育児休業や介護休業に関する制度と、不妊治療のための制度を混同しないことも必要です。

公式資料|職場への説明を準備する

提供:厚生労働省。

主治医と勤務先の間で配慮を伝えるカード様式です。

利用方法を診療先と相談し、提出先・情報の共有範囲を勤務先に確認しましょう。

退職や転職を決める前に、変えられる条件を書き出す

両立が難しくなると、「仕事をやめるしかない」と感じることがあります。

その考えを否定する必要はありませんが、退職は収入、保険、今後の働き方にも関わるため、治療のつらさが強い日に一人で全てを決めなくても構いません。

勤務時間、担当業務、通院先の時間帯、利用できる休暇、一定期間の休職など、変更できる条件を確かめてから考える方法があります。

通院先を変える場合も、診療の継続や記録の引き継ぎを先に確認しましょう。

働き方を変える検討は、「今の仕事を守る」か「治療を優先する」かの二択だけではありません。

収入が減っても続けたい仕事、当面は減らせる業務、休みが取りやすい時期、今後戻りたい働き方など、時間の長さを分けてみます。

勤務先の外で情報を整理したい場合は、公的な労働相談の窓口なども確認できます。

相談の際は、希望する結論を先に決める必要はありません。

「どんな制度や相談先があるか知りたい」という段階から、確認したいことを伝えられます。

身体と気持ちの負担は、我慢の強さで測らない

診察で伝えることを、生活の言葉でメモする

診察では検査結果や次の処置の話が中心になり、毎日の困りごとを伝えそびれることがあります。

「大丈夫です」と答えた後で、本当は聞きたいことがあったと思い出す場合もあるでしょう。

受診前に、症状が出た時期、どれくらい続いたか、仕事や家事への影響、処方された薬について気になることを短く書いておくと、話し始めやすくなります。

記録の目的は、つらさを証明することではなく、医療者が状況を把握し、対応を相談するための材料を増やすことです。

痛みや体調の変化があるときに、「治療中なら当然だろう」と自分で決めてしまわないことも大切です。

どのような変化があれば連絡するか、診療時間外の連絡先はどこか、処置後に避けることや休む目安はあるかを、治療の説明を受ける際に確認してください。

ここにある一般的な整理だけで、症状の緊急性は判断できません。

急な症状や強い不調がある場合は、記事を読み進めるより診療先などへの相談を優先してください。

気持ちを話す場所は、診療の結果を出す場所と別に持てる

治療に関するつらさを話すと、すぐに「もう少し頑張って」「やめれば楽になる」と結論を勧められることがあります。

励ましが助けになる日もあれば、今は結論ではなく話を聞いてほしい日もあるでしょう。

相談する際に、「今日は選択肢を知りたい」「決めずに気持ちを整理したい」「家族への伝え方を考えたい」と目的を伝えると、必要な支えを頼みやすくなります。

何を求めているか自分でもわからない場合は、そのまま話して構いません。

不妊・不育に関する相談窓口、診療先の相談担当者やカウンセラーなど、利用できる相談先を確認しておく方法があります。

対象者、相談の方法、費用、匿名で相談できるか、予約が必要かは窓口によって異なります。

身近な人に話すことだけを唯一の方法にせず、関係を気にせず話せる場が自分に合うか考えてみてください。

当事者の集まりも一つの選択肢ですが、話を聞くこと自体が負担になるなら、今は参加しないという選び方もできます。

公的窓口|地域や相談方法から探す

提供:こども家庭庁。

都道府県、相談内容、対面・電話・オンラインなどの方法から探せます。

対象者・予約・費用は各窓口の案内で確認してください。

治療以外の時間を、結果のためだけに使わない

生活の予定が治療中心になると、休日も食事も人との約束も、「治療に役立つか」で考え続けてしまうことがあります。

休息は、次の治療をうまく進めるためだけに取るものではありません。

何も調べない時間をつくる、結果の話をしない日を決める、治療とは関係のない予定を一つ残すなど、自分が楽に過ごせる工夫を試してもよいのです。

ただし、その工夫まで達成すべき課題にしないでください。

今は生活を回すだけで精いっぱいという状態も、相談の材料になります。

SNSや検索で情報を集めるときは、知りたいことを一つに絞り、確認できたら画面を閉じる区切りをつける方法があります。

他の人の治療歴や妊娠までの経過は、その人の経験であり、自分の今後を示す予測表ではありません。

体験談から知れた工夫は参考にしながら、医療上の判断は診療先と確認します。

見たくない投稿から距離を置くこともできます。

誰かの喜びを祝う気持ちと、自分の負担を減らしたい気持ちは、同時に持っていて構いません。

二人で考えるときは、原因探しと責任の押し付けを分ける

男性側の検査や治療も、最初から確認する

不妊の検査や治療を、女性だけが受けるものと考えていないでしょうか。

不妊には男性側の要因、女性側の要因、双方の要因、調べても原因がはっきりしない場合があります。

男性側の検査についても、いつ、どこで、何を調べるかを診療先に確認できます。

検査は誰かに責任を負わせるためではなく、必要な情報を得て今後の方法を考えるためのものです。

身体に直接関わる人だけが、予約や説明の記憶、費用の管理まで全て担う必要はありません。

出典:日本泌尿器科学会「男性不妊症診療ガイドライン」(PDF)

検査結果の受け止め方は、人によって違います。

数値をすぐ理解したい人もいれば、結果を聞いた後に気持ちの整理が必要な人もいます。

相手が黙っていることを、無関心だと即断しないようにしましょう。

ただし、一方に通院や家事の負担が集中しているなら、その状態は具体的に相談できます。

「もっと協力して」だけでは伝わりにくいときは、予約、会計、情報確認、通院日の食事、会社への調整など、任せたい作業を見える形にすると話し合いやすくなります。

同じ希望でも、同じ速さで決められるとは限らない

二人とも子どもを望んでいても、治療の進め方や休む時期について意見が違うことがあります。

治療を受ける身体への負担、仕事の調整、家計の見通し、結果への向き合い方が同じではないからです。

「本当に欲しいなら続けられるはず」「もうやめたいなら最初から言ってほしかった」と、希望の有無だけで相手を説明しないようにします。

今の気持ち、事実として困っていること、まだ確かめていないことを一つずつ話すほうが、違いを具体的に扱えます。

たとえば「子どもが欲しい気持ちは変わっていない。

ただ、次の周期も同じ通院を続ける余力がない」「費用が心配なので、今回の見積もりを一緒に聞きたい」という言い方があります。

話し合いの目標を、その日のうちに同じ結論を出すことだけにしなくても構いません。

まずは相手の話を聞き、次に確認する事実を一つ決める段階でも前に進めます。

話し合うたびに互いを傷つけてしまう場合は、診療先など第三者に同席や相談の可否を確認する方法もあります。

同意の確認を、一度きりの約束にしない

治療を始めるときに合意していても、体調や仕事、家計、考え方は途中で変わることがあります。

最初に決めた方針を一生守る約束のように扱わず、次の段階に進む前に、説明を理解できているか、何が気になるかを確かめ直せます。

相手の希望を尊重することは、自分の身体や生活の負担を言わずに引き受け続けることではありません。

治療に関わる医学的な説明や同意については診療先に確認し、生活の話し合いと一緒に進めていきましょう。

パートナーがいない方や、周囲に治療を話していない方にとっては、「二人で話し合う」という説明自体が自分に当てはまらない場合があります。

そのときは、この記事の問いを、自分の希望と生活を確認するために使ってください。

一人で意思決定することと、情報収集や相談まで一人で抱えることは別です。

利用を検討する医療機関の対象者や条件を確かめ、相談窓口などに必要な情報を求めることもできます。

自分にいない相手を前提に、無理に話を当てはめる必要はありません。

続ける・休む・終えるを、同じ問いで整理する

気持ちだけでなく、条件と未確認の情報を並べる

治療を続けるか考えるとき、「後悔しない答え」を探し続けると、どの選択にも不安が残って決められなくなることがあります。

将来の気持ちを完全に予測することはできません。

それでも、今どんな説明を受け、何を大切にし、どの条件なら選べると考えたかを言葉にすることはできます。

続ける、休む、終えるのどれにも、得られるものと難しさがあります。

優劣を決める点数表にするのではなく、次の確認に使う項目として、同じ問いで並べてみましょう。

治療を続ける場合

医療面で確認|次の治療の目的・見通し・身体への負担・費用・ほかの方法を、診療先と確認します。

暮らしで確認|今の働き方や生活で続けられるか、変えたい条件は何かを考えます。

いったん休む場合

医療面で確認|休止の医療上の影響、再開時の検査・保険条件、凍結精子・卵子・胚の保管条件と費用を確認します。

暮らしで確認|休む間に減らしたい負担は何か、いつ・何をきっかけに考え直すかを考えます。

今の治療を終える場合

医療面で確認|薬・通院の終了方法、保管物の扱い、記録の受け取り、継続して相談できる窓口を確認します。

暮らしで確認|これからの暮らしをどう整えるか、誰にどこまで伝えるかを考えます。

この整理は、休めば必ず気持ちが回復する、続ければ希望がかなう、終えれば不安が消えるという意味ではありません。

休止中も考えが揺れることはありますし、治療を終える方針を決めた後に相談したくなる場合もあります。

どの選択でも支えを求めて構いません。

また、休止による医療上の影響や再開時の条件は個別に異なります。

身体の状態や年齢、治療歴を踏まえた見通しは、一般論で代わりに判断せず診療先で確認してください。

参考:不妊とMARの心理社会的ケア(日本語版/PDF)

次の診察では、結論より確認したいことを持っていく

医師や相談担当者に聞く質問

① 次に提案されている治療の目的と、選べる別の方法は何ですか。

② 休む場合、医療上どんな点を考える必要がありますか。

再開時の条件は変わりますか。

③ 費用のうち、保険診療と自費はどの部分ですか。

④ 今の薬や通院を終える場合、どのように進めればよいですか。

⑤ 保管中の精子・卵子・胚がある場合、更新、費用、意思確認はどうなりますか。

⑥ 結論が出ていない段階で相談できる担当者や窓口はありますか。

質問を全部一度に聞こうとせず、今回最も気になるものに印をつける方法もあります。

説明を聞いてわからない言葉があれば、その場で言い換えを頼んだり、メモを取る時間をもらったりできます。

別の医療機関の意見を聞きたい場合は、セカンドオピニオンや転院に必要な資料、受け入れ条件、費用を先に確認しましょう。

情報を増やすことが目的なのか、診療先を変えたいのかを分けると、予約時に相談内容を伝えやすくなります。

架空のケースで、決める順番を考える

ここからは、考え方を説明するための架空の例です。

Aさんは子どもを望んでいますが、通院日が決まるたびに同僚へ仕事を頼むことが負担になっていました。

家計を見直しても不安が減らず、「続けるお金がない」と感じていました。

実際に書き分けると、最も困っていたのは支払いより予定の調整でした。

そこで次の診察で日程の決まり方を確認し、職場には治療の詳細より、急な変更時の連絡と引き継ぎを相談することにしました。

この例は、職場に話せば必ず解決するという話ではありません。

相談しても調整が難しい場合はあります。

ただ、「お金がない」と一つにまとめていた負担を、予定の変更、同僚への依頼、制度の使い方に分けたことで、確認する相手が見つかりました。

治療を続ける結論は、その確認の後に考えられます。

最初の不安の言葉を間違いだと否定せず、その中にどんな問題が含まれているかを一つずつ取り出すことが、この整理の目的です。

Bさんたちは、次の治療を受けるか迷っています。

一人は「もう少し続けたい」、もう一人は「少し休みたい」と感じていました。

話を聞くと、前者は見通しを聞かないまま終えることが心残りで、後者は治療の話がない日を取り戻したいと思っていました。

そこで、次の受診で選択肢を聞くことと、その後の予定をすぐ決めないことを分けました。

二人の希望が同じになったわけではありませんが、今必要な情報と時間の違いを確認できました。

自分の状況をこの例に当てはめる必要はありません。

大切なのは、「本当は何が不安なのか」「今すぐ決める必要があることは何か」「確認してから考えられることは何か」を分けることです。

医療上、早めの判断が必要な場合があるかどうかは診療先に確かめます。

そのうえで、生活上の都合だけで決めたと感じないためにも、自分が重く見ている条件を残しておきましょう。

書いた内容は、後から気持ちが変わったときに、自分を責めるためではなく考え直す材料にできます。

ほかの選択肢を知ることと、今すぐ選ぶことは別にできる

治療の方法と、家族のつくり方を一つにまとめない

今の治療を続けにくいと感じたとき、別の治療法、転院、精子や卵子の提供、里親、養子縁組などの情報に出会うことがあります。

しかし、それぞれは対象者、目的、必要な手続き、子どもとの関係が異なります。

「治療が難しいなら代わりにこれを選べばよい」と、同じ表の中で簡単に置き換えられるものではありません。

まず何を知りたいのかを分け、自分たちの状況で利用できるか、どんな説明や準備が必要かを確認する段階から考えられます。

精子提供についても、不妊治療の費用や負担を解決する一般的な方法として勧めることはできません。

医学的な適応、受け入れる医療機関の条件、親子関係、子どもの出自情報、安全性など、別に確認する論点があります。

個人間の提供と、医療機関や精子バンクを通じた仕組みも同じではありません。

妊娠に至る方法を全体から整理したい方は、自然妊娠・人工授精・体外受精・精子提供の解説も確認できます。

子どもの利益を中心に置く制度も、それぞれ確認する

里親制度や特別養子縁組は、子どもの養育と利益に関わる制度です。

治療を終えた人が必ず選ぶ次の段階ではありませんし、希望すれば誰でも同じ形で利用できるわけでもありません。

関心がある場合は、制度の目的、対象となる子ども、研修や手続き、養育を支える体制について、公的な案内や相談機関から確かめてください。

自分たちが子どもを迎えたい理由だけでなく、子どもの生活や必要な支えを継続して担えるかも含めて考える必要があります。

出典:こども家庭庁「里親・特別養子縁組のこと」

子どもを持たない暮らしを考えることも、今ある希望を否定したり、これまでの治療を無駄だったと判断したりすることとは別です。

治療をしない時間に何を大切にしたいか、仕事、住まい、人とのつながり、将来の支えをどう整えたいかを考えられます。

治療についての結論と、人生全体の意味を一度に決めなくても構いません。

今後の暮らしを考えるために情報を集めることと、気持ちの整理がつくことは、同じ速さで進むとは限りません。

相談先は、聞きたいことに合わせて選ぶ

治療内容や体調は診療先、保険の支払いは加入保険者、勤務制度は人事・労務担当、地域の支援は自治体など、相談先を分けると確認が進みやすくなります。

一つの窓口に人生全体の答えを求める必要はありません。

不妊・不育の相談窓口に、医療のことも気持ちのことも含め、どこへ聞けばよいかわからないと伝える方法もあります。

窓口の対象や対応範囲は異なるため、案内を確認し、自分が知りたいことを一つ添えて問い合わせてください。

活動紹介|オールドダディの支援を知る

オールドダディは、精子提供と養育費等の支援を案内している活動です。

活動者の考えや支援の案内を読むことはできますが、それだけで医療上の適応や利用できる制度を判断することはできません。

具体的な支援条件は公式案内で確認し、治療や法律に関わる点は、それぞれの医療機関や専門の相談先で確認してください。

今は活動紹介を必要としない方は、記事内の家計や通院の整理だけを使っていただいて構いません。

活動理由・プロフィールを見る

治療を続けるか迷うときのよくある質問

子どもが欲しいのに休みたいのは、気持ちが弱いのでしょうか。

子どもを望む気持ちと、現在の治療を今の条件で続けられるかは、別に考えられます。

費用、仕事、身体、気持ちのどこに負担があるかを書き分け、休止による医療上の影響は診療先で確認してください。

休みたいと感じたことだけで、希望の強さを判定する必要はありません。

保険が使えれば、費用の心配はしなくてよいですか。

保険診療でも自己負担があり、自費の検査や先進医療、通院の交通費、働き方による収入の変化などは別に確認が必要です。

自分の治療計画の内訳と支払う時期を診療先に聞き、高額療養費などの条件は加入保険者に確認しましょう。

職場には治療の詳しい内容まで話すべきですか。

まずは勤務の調整に必要な事情と、自分が共有したい範囲を分けて考えられます。

制度の申請に必要な書類や、情報が社内の誰に共有されるかを確認してください。

不妊治療連絡カードの利用も診療先に相談できますが、希望する配慮が自動的に決まるものではありません。

パートナーと意見が違うとき、その場で結論を出す必要がありますか。

今の気持ち、困っている事実、未確認の情報を一つずつ共有する段階から始められます。

医療上いつまでに判断が必要かを診療先に確かめ、そのうえで話し合う時間を考えましょう。

二人で話すことが難しい場合は、相談担当者など第三者の支援を利用できるか確認する方法もあります。

治療を終えると決めていなくても、相談してよいですか。

結論が出ていないこと自体を相談内容にできます。

治療を続ける条件、休む場合の見通し、気持ちの整理、家族への伝え方など、聞きたいことを一つ伝えてみてください。

相談先ごとに対象や対応範囲、費用が異なるため、利用前に案内を確認しましょう。

今の希望を大切にしながら、次に確認することを一つ選ぶ

子どもが欲しいのに治療を続けられないと感じる背景には、一つの理由だけでなく、費用、予定、身体、気持ち、周囲との調整が重なっていることがあります。

その負担を気持ちの弱さで説明せず、変えられる条件、支援を求められる部分、医療者に確かめたいことへ分けてみましょう。

続ける、休む、終えるという言葉を先に選ぶより、「次の診察で何を聞くか」「今週、誰に何を頼むか」を一つ決めるところから始められます。

今日、結論が出なかったことを失敗にしなくて構いません。

説明を聞いてわかったこと、今も迷っていること、守りたい生活の条件が一つ言葉になれば、それも次の相談の材料です。

選んだ後に考えが変わった場合も、以前の自分を責めるためではなく、新しくわかった情報や変わった条件を確かめるために見直せます。

子どもを望む気持ちと、今を暮らしている自分の身体や生活を、どちらも大切なものとして扱いながら考えていきましょう。

STEP
負担を分ける

費用・時間・身体・気持ちを別の欄に書き、今いちばん困っていることを一つ選びます。

STEP
聞く相手を選ぶ

治療は診療先、保険は加入保険者、勤務制度は人事・労務担当へ。

今回知りたいことを短く伝えます。

STEP
次の確認を残す

わかったこと、まだ迷うこと、次に聞くことをメモします。

治療についての結論と、情報を確かめる予定を分けて考えます。

参考資料・情報の確認について

情報確認日:2026年10月22日。

保険や助成、勤務先の制度、相談窓口の対象・利用方法は変更される場合があります。

ご自身の治療計画や利用条件は、診療先、加入保険者、勤務先、各窓口の最新の案内でご確認ください。

本文の会話例とAさん・Bさんのケースは、考え方を説明するために作成した例です。

特定の方の治療経過や、治療の結果を示すものではありません。

医療・保険

こども家庭庁|不妊治療の保険適用

厚生労働省|保険適用の疑義解釈(事実婚・第三者提供等、問12・13・22)

厚生労働省|高額療養費制度の最新案内

日本泌尿器科学会|男性不妊症診療ガイドライン2024年版

仕事

厚生労働省|不妊治療と仕事との両立のために

厚生労働省|不妊治療連絡カードの使い方(PDF)

厚生労働省|モデル就業規則・不妊治療休暇の解説

厚生労働省|治療と就業の両立支援指針(2026年4月適用)

相談・家族の選択

こども家庭庁|不妊・不育の相談窓口

ESHRE・日本生殖心理学会|不妊とMARの心理社会的ケア(日本語版)

こども家庭庁|里親・特別養子縁組のこと

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